上武国境

赤岩峠〜天丸山〜帳付山〜南天山


第2部 彷徨編(滝谷山〜南天山〜広河原沢)

第1部 激登編のあらすじ
 居酒屋で謎のオジサンの誘いに乗った隊長は西上州の赤破線踏破の旅へ出発した。薮と岩に悩まされつつ帳付山までたどりついたが、能天気にも滝谷山へと駒を進めるのだった。ところが想像を絶する薮山に登山隊のペースは大幅に減速し、滝谷山に着いたのは4時となってしまった。秋の陽は釣瓶落し、果たして登山隊の命運は如何に!

○ところが焦るとロクなことがない、尾根を下る道を間違えたー。しかし稜線は笹原を挟んでわずか百メートルほど先です、強引にトラバースを始めますが、背丈の2倍以上の笹が密生している急斜面をまともに渡れる訳がありません、登山隊の得たものは『貴重な時間の浪費』と『体力の消耗』そして『得難い教訓』でした。お疲れさん。

20Mの岩壁を下り稜線を行く
○嗚呼、ここににも行く手を阻む20Mの断崖絶壁が。恐々と巻きながら下りますが、脆い岩は少しの力でも崩落を開始します。「隊長ー!」シェルパの悲鳴に振り向くと。な、なんと人間大の大岩が崩れ落ちてきます。『もうアキマセン』とっさにどちらに避ければ良いかと身構えるその眼前で、大岩は堅い岩にブチ当たり真二つに。分かれた岩は棒立ち隊長の左右を物凄い勢いで通過します、あとにはガレ場に響き渡る落石の音が残ります。暫くは震えの止まらん隊長です。

○黄昏の尾根上を渾身の力を振り絞って進む登山隊ですが、気ばかり焦ってもなかなか距離は稼げません、徒に時間ばかり経って行きます。いつしか辺りはとっぷりと暮れヘッドランプを頼りに、笹と潅木の薮漕ぎで尾根筋を辿る隊員の顔には疲労の色が濃くなってきました。日暮れて途遠し、もういくつコブを越えたのでしょうか、辿りついたピークは1538pでしょうか?かすかに北東に向かう尾根が夜空に黒々と影を落としています。東へ向かう尾根は南東に向いているようです、鴉天狗のサジェスションで黒い尾根方向に道を探します。ピークを巻くようにして尾根筋を辿ると、踏み跡らしきものが有りました。

○笹薮のなかに続く比較的歩き易い道をスイスイと20分進み次のピークに到着です。「さあ下りはどちらかな?」と磁石をライトにかざしたところ『ガ〜ン!』な、なんと針はWを指しているじゃありませんか。茫然自失、暫くはパニックで思考回路も閉ざされてしまいました。磁石が壊れたか、はたまた磁気を帯びた岩?登山隊を包む沈黙の壁。狐につままれたまま失意の登山隊は重い足を引きずりながら来た道を引き返すのでした。(どうりで道が良かったはずです、自分の薮漕ぎの跡を通ったのですから)

○さきほど間違えたピークからは慎重に笹薮のなかを東に下ります、左方への尾根の分岐を探しながら進みますが見当たりません、とうとう次のピークに着いてしまいました。こうなると現在位置に自信がなくなります、辺りは真っ暗で山影すら判別できません。ピークからは北と南東に尾根が続いているような感じです。南に行き過ぎるのは嫌なので北方の偵察に急斜面を下りますが、アッと思った時には足元に何も有りません『もう駄目か!』一瞬の降下時間がひどく長く感じました。3Mほどの岩場で足を踏み外して滑落したのですが、落ち葉が積もったクッションのお陰で手の擦り傷だけと奇跡的に助かりました。

暗いビバーク
○これ以上暗いなかを動きまわるのは危険です、本日はここでビバークとします。登山隊はこの季節に不時露営の経験はありませんが、ツエルト始め装備は完璧ですので心配ありません、さっそく携帯で家族に連絡をとります(本当に便利になりました)ウエアを全部着込んで、北風を避け南斜面でツエルトをかぶります、あとはホカロンでヌクヌク・・・のはずでしたが、夜半に地面から冷え込みが伝わってきて寝ていられません。ローソクに当たりながらウトウト夜明けを待ちました。快晴の夜空には星がいっぱい=明け方には放射冷却が・・・

○明けてピークに立ちますと山々が見渡せます、現在位置もばっちりです、ここは1538pだったんですねぇ。南天山へ続く尾根の分岐もはっきりと確認できましたが、テープの類は一切ありません、南東に向かう尾根筋の方がはっきりしていますので間違えそうです。潅木を払いのけながら尾根を忠実に辿って下ります、小ピークを2つほど越した先に峠があり右から広い道が上がって来ています。ここから道は劇的に良くなり南天山に向かいます。鎌倉沢への分岐(立派な道標に感激)から最後の岩場を登り切ると待望の山頂です。

南天山からP1510、六助、焼岩、倉門山
○ここは県界尾根の絶好の展望台です、両神山から赤岩岳、1510p、帳付山、滝谷山、1538pなど縦走してきた山脈が一望のもとに展開しています。昨日からのとんでもない苦労が報われた思いです、心ゆくまで展望を楽しんでから下ります。『要ザイル15Mの垂直岸壁』は恐いので広河原沢に下ることにします。西の肩からテープに導かれて支尾根に入りますが手前の尾根じゃないですか、早くも道を間違えました。まあ下までは短いしなんとかなるだろうと潅木をかき分け強引に下ります(まったく懲りない奴)

○潅木と岩のミックスしたトラバース地点で「わぁー!」という悲鳴に振り向けば、仰向けになり頭から滑落するシェルパの姿が、潅木をなぎ倒しながら数メートルも落ちました。「だいじょうぶかー」と駆け寄ると幸い怪我はありませんでした。なんちゅう頑健さ、隊長は肝を冷やしながら更に下ります。しかし左右の谷はしだいに近づき遂に尾根はなくなり沢に出てしまいました。

○掟破りの沢下りです、水は少ないのですが落ち葉の下にツルツル滑る岩が隠れているので気が抜けません。さして傾斜が急な訳ではないのですが、滑り易いので何度も高巻きを繰り返します。ところが前方に滝が!20Mぐらいの落差の滝があるじゃありませんか。『こんな立派な滝を見逃すなんて国土地理院は何をしているんだ』ついに八つ当たりの隊長です。両側から絶壁が迫り高巻きは不可能です、万事窮す。

○滝の落口まで来てみると右岸の岩場がなんとか下れそうです、ところがここの岩は非常に脆く完璧な3点確保を要求されました。垂直な岩場を下ると今度は斜めの滑る一枚岩をトラバースしなければなりません、上から垂れ下がっている木の根っ子を支えにヘッピリ腰でクリアします。本日一番の緊張地点でした。なんとか広河原沢にでると緊張でへとへとです、少し下流まで行き林道によじ登ると精根尽き果てました。

○広河原林道は上流では所々崩壊しており全面通行禁止でした。林道歩きは単調ですが、中津川からは青空をバックに聳え立つ赤岩岳が正面に眺められ、豪華な景観に眼の保養をさせてもらいました。帰りは坂本の先で観音蕎麦の旗に釣られて暖簾を潜りました、ばあさんが一人でやっているので待たされて失敗かと思いましたが、揚げ立ての山菜天ぷらと手打ち蕎麦は期待以上に美味でした。途中秩父のいこいの村(840円)で山の汗を流して帰路につきました。

○今回はマークの無い薮を真っ暗のなか彷徨するなど、登山隊の実力を問われる厳しい場面が多くありましたが、また得るものも多く充実した山行となりました。でも家族の顰蹙を買い信頼を失ってしまいました、情けなやぁ〜

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