空木岳

嵐の山頂


【行程】 10/17(土)雨[たまプラーザ0:00=調布IC0:50=駒ヶ根IC4:00=登山口(六本木地蔵下)4:30/7:20−林道終点7:41−池山御池8:46−(道に迷う50分間)−マセナギの頭10:15−迷尾根11:10−避難小屋分岐12:22−空木避難小屋12:34−駒峰ヒュッテ13:20−空木岳13:30/13:40−空木避難小屋14:15/14:45−迷尾根15:45−マセナギの頭16:27−池山御池16:55−林道終点17:45−登山口18:05/18:10=こまくさの湯18:30/19:20=駒ヶ根IC19:30=調布IC22:45]
【メンバー】 隊長、林道の鴉天狗、シェルパ1号

○台風10号が接近しつつあるなか、午後から一時的に雨が止むとの天気予報に一縷の望みを託して(というか都合よく解釈して)登山隊は空木岳へと向かいました。計画では池山尾根から桧尾尾根の周遊コースも視野に入れていましたが、雨のため無理はせずにピストンとしました。

○断続的な雨がしだいに強くなるなか、林道を上って行くと通行止めの標識に行く手を阻まれます。この先土砂崩れのため通行禁止とのこと、「通れないならしゃあないなぁ」と六本木地蔵手前の登山道との交点で仮眠しますが、カンカンと車の屋根を叩く大粒の雨の音でなかなかな寝付けません。朝の6時に目を覚ますと周りは明るくなりましたが、相変わらず雨は降り続いています。なかなか出発の踏ん切りがつかないうちに、とうとう7時を回ってしまいました。これは大変、ようやく重い腰をあげ車の中で着替えを済ませ出発します。

○結構雨は降っていますが風は無いので、登山隊としては初めて傘をさして歩くことにします。(昔は雨具が悪くて傘をさして歩いたものでした)隊長は透明ビニール傘で前も見えるのでなかなかグッドです、雨も全然気にならず快調に樹林帯のなかの道を飛ばします。歩き始めて1時間半で池山御池に到着です。ここから池山への道が開かれています(30分)ガイドブックには無いのですが、ここには水が引いてありかなりの水量の水が流れていますのでここで一服します。

○少し登った道端に真新しい菊の花を生けた花瓶とローソクが供えてありました。「こんなところで遭難?」「よほど運の無い人だったんだ」「縁起わりぃー」などと笑いながら通り過ぎる不謹慎な登山隊でした。やがて緩やかな下りの後に尾根への登りが始まりますが、赤テープに導かれてショートカットと思しき道に入ります。少し進むとテープが見当たりません、しかし踏み跡らしき所を200メートルほど辿るとポツンとテープがあり一安心です。更に進みますが次のテープはなかなかありません、トラバースして行けばどこかで正規ルートとぶつかるはずと5分ほど進みますが踏み跡は跡絶え隊長も自信がありません。地図と磁石を出して確認しようとするのですがもう一つ分かりません「しゃあない、戻ろう」ところが元へ戻りかけたのですが、今度は戻る道が不明となりました。どこをどう通ってきたものか、落ち葉の積もった林のなかは右も左も同じように見え完全に道を失ってしまいました。「うーん」とにかく下に向かえば正規のルートがあるはずとの確信から林を50メートルほど下ると、なんと下に道が見えました。良かった良かったと道についた登山隊は小休止です。シェルパ1号の「戻ったのは隊長の英断でした」との誉め言葉に「営団地下鉄半蔵門線」などとダジャレで切り返す余裕の隊長です。

○さて元気を取り戻した登山隊は緩やかな上りの登山道を歩きはじめます。「空木登山道」の標識も現れ一安心。そして少し下った角を回ったところにあったものは………隊長はあまりの衝撃に言葉を失いました、全身鳥肌の立つ思いです。なんと道端にはあの菊の花が!何かの間違いか?フリーズする隊長、登山隊を包み込む静寂。

○もう一度辿れば、いくつかの錯覚と思い込みが重なった結果と説明がつくのですが、じゃあ何で間違いを繰り返したのか、信じられないほどの思考力の低下をどう理解すれば良いのでしょうか?目に見えない何者かの意思を感じてしまいます。今までの人生のなかで経験したことのない戦慄の超常体験でした。帰りの道でも菊の花の地点に近づくにつれてビクビク隊長の足は鉛のようになり前へ進みません。「もしかして、菊の花が無かったらどうしよう」とつまらん心配をする小心者です。「あっ、あったー」思わず手を合わせて成仏を祈る登山隊でした。(あぁ恐かった、これから夢でうなされそう)

空木平から沢添いの登り
○マセナギの頭までは樹林帯の登りですが、そこからは痩せ尾根を大地獄、小地獄と越えて行きます、ほとんど鉄の階段が付いており危険な場所はありませんが、アップダウンがありしんどい所です。迷尾根を通り暫く行くと広い尾根に出ます、ここからは植生がかわり風も強まります。このあたりからシェルパ1号が疲れてきたので分岐からは尾根道を通らず避難小屋へと向かうこととします。小屋は昔ながらの小さなものですが、管理は行き届いており風雨は凌げます。ここにザックを置いて雨のなか山頂を目指します。小屋の裏手の沢は濁流となりまるで白い帯のように見えますが、この沢添いに徒渉を繰り返しながら登ってゆきます。ガスの流れるなかで断続的に叩き付けるような雨が襲ってきますが、お気軽隊長は傘を手放さず、雨のなかを楽しそうに歩いて行きます。「北壁の死闘」を読み終えたばかりの隊長は、気分はアイガーです。いつのまにかシュペングラーになりきっています。

○駒峰ヒュッテからの稜線上の道は強風と雨で顔をあげられません、花崗岩の砂の滑りやすい急登を這うようにして登ります。山頂では景色どころではありませんので記念写真を撮ると早々に下ります。駒峰ヒュッテ(新館は閉鎖だが旧館が開いている)で一休みしてから避難小屋まで一気に下りますが、ガスで迷うことが心配で往に積んだケルンも見失うこと無く無事に小屋に到着です。ここで遅い昼食をとり下山にかかります。午後から一時的に回復との天気予報はどうも外れたようです、風はピューピューと一段と強くなり小屋の屋根を激しく叩く雨音は工事現場のようです。

○登りも長かったけれど下りも長かった。このコースタイムは半端ではありません、カモシカの足を誇る登山隊をしてもコースタイム通りが精一杯でした。天気も悪いのでかなり早く暗くなるのは覚悟していたのですが、シェルパ1号がランプを車に置いてきたドジが判明。しかし隊長が予備のライトを持っていたのです、ところが今度は隊長のヘッドランプが点灯しません。うーん、2週間前には点いたのに隊長の点検ミスです、でも予備の電池でピンチを切り抜けました。

○とっぷり暮れて真っ暗になりましたが、ようやく車に辿り着いた登山隊は雨の中、すばやく離脱します。林道を出たところの商店で「こまくさの湯」を教えてもらい直行します。ああ今日は恐ろしい目に会ったのですが無事に下山できて良かった、温泉の中で手足を伸ばして初めてリラックスできたのでした。(本当に隊長はつらい)温泉からあがると雨が止んでいるじゃありませんか、天気予報が数時間ずれたのでした。今回の山行では一人も登山者に会いませんでした、もともとロープウェイ工事中の静かな山旅を求めてきたのですが、ちょっと寂しいですね、1週間前の人気の山の混雑が嘘のようです。

1998年の記録へ

百名山の記録へ