北アルプス

三俣蓮華岳・双六岳・抜戸岳

抜戸岳の登りから双六岳を振り返る



【行程】 7/17(金)小雨 [竹橋22:45=(毎日アルペン号)=]
7/18(土)豪雨 [==新穂高温泉5:30/6:35−わさび平7:45−シシウドヶ原9:27−鏡平10:48−笠ヶ岳分岐11:48−双六小屋12:58/13:20−(巻道)−三俣山荘15:35]
7/19(日)暴風雨 [三俣山荘6:40−三俣蓮華岳7:27−双六岳8:45−危険雪渓9:10−中道9:46−双六小屋10:11]
7/20(月)快晴 [双六小屋6:02−鏡平分岐6:53−大ノマ岳7:50−秩父平8:13−笠新道分岐(抜戸岳)9:10−左俣林道12:01−新穂高温泉12:53/12:56=(濃飛バス)=平湯13:24/14:30=(高速バス)=新宿21:18]
【メンバー】 隊長、菱柄の紋次郎



○水晶岳の北方にある赤牛岳は隊長の憧れの山です。烏帽子小屋から眺めた赤牛岳の勇姿を忘れがたく、読売新道を通り縦走を試みます。最低でも山中2泊が必要な山深いロケーションですから、海の日の3連休を当てます。でも悲しいサラリーマンには予備日がありません・・・天気が成否を決します。同行はロングコースに強い菱縞の紋次郎さんといたしましょう。

○早々と梅雨明けした日本列島でしたが、梅雨明け10日の晴天は何処へ?梅雨前線が戻り天候が安定しません。竹橋を出たバスのフロントガラスを小雨が濡らします。途中で休憩したSEでは雨も上がりシメタと思ったのですが・・・新穂高温泉に着いたバスを迎えたのは豪雨でした。

○びしょ濡れになってザックを受け取ると雨宿りのためトイレに駆け込みます。ゴォーゴォーという沢音と屋根を叩く雨音に恐れをなし、ここから帰ることばかりを考えます。それでも6時20分の始発バスが出る頃には雨も小降りになり、出発して行くパーティも多くなりました。仕方が無いので我々も重い腰を上げましょう。もちろんザックの着替えは完全防水としておきます。

○左俣林道を辿り、わさび平の小屋を過ぎると小池新道になります。何ヶ所か渡渉点がありますが、渦巻く濁流の上には木橋が渡してありノープロブレム。登山隊は黙々と高度を稼いで行きます。標高が上ると雨足は次第に激しくなり、登山道は川と化し滝の中を登ります。傾斜が緩くなり木道が現れると鏡平です。団体で込み合う山荘入口で雨を避けながら食事を腹に入れます。

○森林限界を越えると激しい風雨はカッパを叩き、下着の中まで濡れ始めます。稜線に出ると一段と雨足が強くなりました。水溜りの出来た双六小屋のテン場には1張りだけ頑張っていました。双六小屋に入り道の状況を確認します「巻道は雪渓がありお勧めしません。でも自信があれば止めませんよ」『うーん、自信は無いが・・・』

○何故か巻道に向ってしまった登山隊です。雪は硬く無くキックステップで雪渓のトラバースが可能でした。赤いマーキングが雪の上にありましたからガスでも道に迷う心配はありません。何とか数本の雪渓を横切ると前方から2人の登山者が現れひと安心、やがて三俣蓮華への登りとなります。

○遅れがちな紋次郎さんを待つ間に強風に吹かれた身体はどんどん体温を奪われます。三俣山荘では着替えるまで小刻みな震えが止まりません。これは低体温症の一歩手前の症状です(危ないところでした)小屋には具合の悪い登山者が1人いて、明日の天候を考えヘリで搬出することになりました。ガスがあがり小康状態とはいえかなりの強風が吹く中で、富山県警の新型ヘリは安定した飛行で患者をピックアップして行きました。こういう事態では衛星電話とかヘリとかの文明の利器は便利です。

○翌日は昨日以上の暴風雨です。停滞も考えたのですが、明日中に下山しなければなりませんので、赤牛岳は諦めて双六小屋まで戻ることにいたします。乾燥室のストーブが故障していたので濡れたズボンを穿くことになってしまいました(情けなぁ〜)念のため下着は冬山用のポリエステルの物にいたします。

○昨日は巻道を通ったので、今度は尾根通しに歩いてみましょう。三俣蓮華岳までは風も強くなく無事に到着です。ここで双六小屋から来た老人2人連れと擦れ違います。まったくこんな天気に行動する好き者もいたもんだ!稜線の東側は風が遮られますが西側はモロに強風が当たり歩くのに支障があるほどです。

○何を好き好んでの稜線歩きか?中道分岐を過ぎるとひと登りで双六岳です。山頂を吹き抜ける風は半端ではありません。雨はバチバチとカッパを叩き、体の周りを水が流れ落ちます。風に逆らいながら踏ん張りますが、突風に数メートル飛ばされ岩に叩きつけられそうになります。瞬間風速30m以上でしょうか、耐風姿勢を取りながらガスの中でケルンを目印に広い稜線を下ります。

○稜線から離れると風は無くなりホッといたしますが、急な雪渓が前方に現れます。一難去ってまた一難!ガスで視界は20mほどで対岸の様子も不明です、赤いマーキングはなく踏跡も見えません。恐る恐る数歩踏み出しますが脚が震えます・・・「戻りましょう!」という紋次郎さんの的確な判断で危機を脱しました。

○再び稜線に出ると目も開けていられない強風に立ち向かいます。向かい風に難渋しつつ双六の山頂に向うと、地面に立て札が転がっていました。吹き飛ばないように載せてある石をどかすと『この先危険雪渓あり通行禁止』と迂回ルートが書いてありました。かろうじて見えるケルンを確認しつつ迂回して中道を目指します。

○時間はまだ早いのですが、明日の行程を考えて双六小屋に入ります。停滞組が多い割には布団1枚に1人とまずまずの混み具合でした。ここで驚愕の事実が!アミューズトラベルご一行が2組もいたのです。16日にトムラウシで大量遭難事件を起こしたばかりなのに、何の反省もなくツアーを実施している神経がわかりません。少なくとも当面はツアーを中止し、事故防止に向けて、原因究明と案内人の再教育をしたうえでのツアー再開ではないでしょうか?

槍ヶ岳から穂高岳まで一望できる


○翌日は昨日の嵐が嘘のような快晴です。大きく羽を広げたような鷲羽岳が正面に望まれます。小屋の前からご来光が拝められ、次第に鷲羽岳の山頂付近が明るく照らされます。この天気ですぐに下山は勿体無い。ということで笠ヶ岳方面に稜線を歩き、笠新道を下ることにいたします。少し先からは槍ヶ岳から穂高岳の稜線が眼前に現れ、荒々しい岩肌が手に取るように眺められます。

雷鳥の親子が目前に現れます○秩父平の豊富な残雪から流れ出る冷水は乾いた咽を潤してくれました。ひと踏ん張りで稜線まであがると、黒部五郎・薬師岳が目の前に飛び出します。眼前には印象的な大きなドーム状の笠ヶ岳が次第に近くなります。下山時の雪渓を心配していたのですが、笠新道は鞍部からではなく、抜戸岳の山頂をかすめるように付け替えられていて残雪の心配はありませんでした。

抜戸岳から笠ヶ岳を望む○驚くほど多人数の登山者たちを追い抜きながら暑い笠新道を下ります。左俣林道に着いた時には膝はガタガタでした。13時前に新穂高温泉に到着ですが、期待の無料温泉は休止中でしたので、目の前にいた発車寸前のバスに飛び乗ります。平湯で源泉掛け流しの温泉に入り汗を流せば、3日間の苦労も吹き飛びます。正面に笠ヶ岳が望まれる露天を独占して殿様気分でした。

○帰りの高速バスは2時間近くも遅れて新宿に到着です。今回は悪天候に阻まれて赤牛岳へは登れませんでしたが、北アルプスの展望を十二分に楽しむことができました。次回機会があれば読売新道のリベンジを果たしたいと思います。でも低体温症の恐ろしさを実感し、トムラウシでの事故もあり、嵐のなかでは無理は禁物と肝に銘じました。



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