甲斐駒ケ岳
駒津峰から甲斐駒ケ岳を望む
【行程】 7/15(土)晴れのち雷雨 [たまプラーザ3:45=(車)=戸台8:14/8:24−戸台大橋8:36/9:19=(バス)=北沢峠10:05/10:09−双児山12:02/12:19−駒津峰13:02−六方石13:42−甲斐駒ケ岳14:43/14:54−六合目石室15:55(泊り)]
7/16(日)雨 [六合目石室6:15−丹渓山荘分岐6:26−五合目7:03−四合目7:47−三合目8:23−本谷10:02−丹渓山荘12:13−丹渓新道入口13:15=(バス)=戸台大橋13:43−戸台14:03/14:10==橋本山荘14:12(泊り)]
7/17(月)雨 [戸台8:22==たまプラーザ14:40]
【メンバー】 隊長、林道の鴉天狗
○鋸岳の稜線は岩場の連続で素人にはちと手強い感がありましたが、一昨年来整備がなされ悪場には鎖が架かり赤ペンキでコースが指示されているとの情報をネットで得ました。これで海の日の三連休は南アルプスの甲斐駒ケ岳から鋸岳への縦走で決まりです。初日にバスで北沢峠まで上がり甲斐駒を経て六合目石室に泊り、翌日は核心部を通過し戸台に下ります。予備日を1日持つ慎重プランです。
○中央道から仰ぐ甲斐駒は雲ひとつない黎明の大気を背景に朝日を浴びて神々しいまでの凛々しい姿です。戸台までは順調でしたが河原の駐車場に車を入れて戸台大橋に着いたら8時15分のバスは出たばかり、次は2時間後ですって。ベンチで不貞腐れる登山隊に救いの女神が微笑みます。突然、目の前に臨時バスが出現し慌てて飛び乗りました。
○34年前は鬱蒼とした峠道でしたが、林道が通り明るく俗化した北沢峠には感慨深い隊長です。時間が無いので稜線通しに双児山に向かいます、樹林のなかの急登ですが涼しい風が通るので助かります。双児山からは展望の良い稜線上の道です。左手には鋸岳の猛々しい尾根筋、前方には白い花崗岩と緑のコントラストが眩しい甲斐駒、右手には栗沢ノ頭からアサヨ峰、その奥には鳳凰三山、振り返ればどっしりと大きな山容の仙丈ケ岳、残念ながら北岳は雲の中でした。
○ぼちぼち駒ケ岳からの帰りの人たちとすれ違うようになりました、駒津峰では仙水峠からの道を合わせ一段と賑わいます。正面に大きく聳える駒ケ岳には溜息が出ますが、気を引き締めて参りましょう。六方石からは直登ルートを取ります、誰も居ませんが明日のための慣らし運転と岩稜に挑みます。
○一箇所だけ身体を入れ替える微妙な乗越しがありますがノープロブレム。ただし35リットルのザックに50リットルを詰め込む超過載状態では首が回らずバランスを取るのが難しい(食料、水など消費後に核心部の縦走があるため小型ザックにしました)それでも何とかヨタヨタと山頂に向かって歩を進めます。
○もう3時に近いので山頂に人の姿は疎らです、いつの間にか雨雲が周囲の山々をどんよりと包み展望もよろしくありません。おまけに微かに雨が落ちてきました、遠くの雷鳴に慌てて腰を上げます。今度は正面に鋸岳を望みながら這松の岩場を下ります、時々踏跡が薄くなりますが尾根を外さないように慎重に下ります。前方に黒雲が現れ雷鳴の間隔が短くなってきたようです。
○古い針金のトラバースを過ぎると20mの鎖場です、結構な傾斜なので縦走ザックでは苦しい場面です。落ち着いていれば何でもない場所ですが、雷の音に急かされながらですから生きた心地がいたしませんでした。雷が近づくなか雨が強くなりカッパを着ます、ガスが流れ視界が悪くなってきました。コースタイムの50分が過ぎましたが、なかなか石室は見えません。
○ようやく岩がゴロゴロしたところで「石室」とのペンキを発見し信州側へ下ります。ガスの中から小さな屋根が見下ろされます。予想に反して誰もいませんでした。天井は所々破れていますから石室内にテントを張ります。タイミング良く雷鳴とともに雨脚が強くなりボタボタと雨漏りが賑やかなことです。
○夜の間に雨は断続的に降り続き、明け方から風が強くなってきました。テントから出るのが億劫で『停滞』との言葉も頭を過ぎりますが、天気予報では明日の方が崩れそうです。カッパを着て強風の中を嫌々出発いたします。ガレ場では遮るものが無く風に飛ばされそうなくらいです。こんな状態で難度の高い岩場を渉るのは自殺行為です、とっととエスケープすることにいたしましょう(この時点ではマトモな判断でした)
○ところが丹渓山荘への七丈ヶ滝尾根分岐には『危険個所あり通行禁止(長谷村)』などと書いてあります。でも荒天の稜線を行くよりマシかと下ります・・・嗚呼、これが大間違い。始めは倒木が煩いものの踏跡もしっかりとありました、暫くすると山が崩れて尾根上の道が大きく抉れた所があり「ここが危険個所だな」と納得しながら通過します。
○古いテープが所々にありますが、次第に間隔が長くなります。やがて踏跡を見失いました。二人で必死に捜し回りますが影も形もありません、失意の登山隊は前回テープを確認した地点まで戻ります。何時の間にか急な斜面を下っていたのですね、登り返しに息が弾みます。
○隊長がふと左手を岩角に掛けますと、ザックほどもある大岩がフワリと動き落下してきます。とっさに身体を開いて避けますが左の膝をかすって転がり落ちます。すぐ後にいる鴉天狗に「危ない!」と声を掛けるのが精一杯でした。幸い鴉天狗も機敏に避けて難を逃れましたが、本当に肝を冷やしました。哀れカッパの膝はザックリと裂けズボンもカギ裂きで身体には薄い傷跡が・・・
○それから何回道を失ったでしょうか、針金とか残置ロープの岩場よりも道に迷う恐怖との戦いでした。一度など神経質になりすぎて正しい尾根道を戻ったこともありました。ライターのような落し物にほっとする隊長でしたが、鴉天狗が「遭難者の落し物かもしれない」って、余計なことを言う奴。
○本谷に出たときには、やれやれ一安心です。ところが沢を下る道が不明です。地図では左岸にあるはずですが、大きく崩れたガレ場が続き道があるようには見えません。右岸は沢に下れる道がありませんので大きく迂回して左岸に渡りガレ場を通ってようやく沢に下りました。
○それほど急な沢ではありませんが、小さな滝や函はありそうです。沢装備もなく前途に不安を抱えながらおっかなびっくり沢下りに入ります。幸い時間はたっぷりあります、どんなに大きな高巻きでもする覚悟です。滑り易い岩を右に左に靴を濡らさないようにヨチヨチと歩きます。それにしても時間の経つのが速い。
○始めの函は左の涸れ沢に逃れますが、次の滝は僅か数メートルですが下れません。左岸のヘツリは最後の2mが下りられません、右岸の大岩を高巻くしか方法がないようです。鴉天狗が偵察に入りますが嬉しそうに戻ってきました。岩の奥に踏跡を発見しました!
○暫くは林の中の踏跡を辿りますが河原を歩く何倍も速く進みます。やがて河原に戻り中州を進み左岸の雑木林に突入します。今度は勘が当たり踏跡とテープに導かれて丹渓山荘に到着です。前方に別棟のトイレを見たときの嬉しさといったらありません。コースタイムの2倍以上掛かってしまいました。丹渓山荘は高台の上に残っていましたが廃屋となり荒れ放題です。
○ここから廃道になった丹渓新道を通って南アルプス林道まで出ます。今度はピンクテープが必要以上に付いていますから迷う心配はありません。350mの登りに40分の行程のはずが1時間もかかりました。最後はバスの時間が気になって鴉天狗をぶっちぎって林道に着きました。
○500mぐらい向こうですれ違う下りのバスを目撃し「バスがくるぞう」と姿の見えない鴉天狗に何度も叫びます。これを逃したら2時間待ちです、必死でバスを停め同乗をお願いし鴉天狗を急かしながら乗り込みます。
○往きに見えた鋸岳も今は雨雲のなかです。途中の豪雨に胸をなでおろし無事の帰還を喜びます。本日はもう疲れたので戸台の「橋本山荘」に泊ることにします。学生時代に1度お世話になった懐かしい宿ですが、婆さんが一人で細々と営んでいました。時の流れから忘れられたような山奥の宿での一夜は疲労困憊の隊長を優しく癒してくれました。
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