1839峰

コイカクシュサツナイ岳・ヤオロマップ岳・1839峰

孤高を誇る1839峰(コイカクシュサツナイ岳より)


【行程】 8/12(金)曇り [たまプラーザ5:16=(バス)=羽田6:02/7:53=(JAL1151)=帯広9:26=(車)=札内ヒュッテ14:23(泊り)]
8/13(土)晴れ時々曇り [札内ヒュッテ5:23−第二函6:42−上二股7:50/8:03−1305テン場10:41−夏尾根の頭12:31−コイカクシュサツナイ岳12:43(泊り)]
8/14(日)ガス時々晴れ一時雷雨[コイカクシュサツナイ岳5:10−ヤオロの窓6:02−ヤオロマップ岳7:03/7:14−1781p8:00−1839峰10:19/10:50−1781p13:06−ヤオロマップ岳13:46/14:10−ヤオロの窓15:13−1665m16:08/17:00(雷退避)−コイカクシュサツナイ岳17:15(泊り)]
8/15(月)曇りのち晴れ[コイカクシュサツナイ岳6:51−夏尾根の頭7:03−1305テン場8:10−上二股9:15/10:20−第二函11:22−札内ヒュッテ12:33/13:34==清水温泉フロイデ15:18/16:05==剣小屋17:15(泊り)]
【メンバー】 隊長、林道の鴉天狗


○北海道岳人憧れのイッパサンキュウに登りたい。日高主稜線から西に外れ孤高を誇るその姿をカムエクから眺めて以来、何時かは頂きに立ちたいと密かに心に誓ったのでした。2年前の夏に台風で登頂を断念した登山隊でしたが隊長の思いは募るばかり、再び鴉天狗を誘って挑戦です。

牙を剥く人食い熊○十勝帯広空港に降り立つとレンタカーを借り帯広市内でガスを調達してから札内ヒュッテに向います、時間が早いので「日高山岳センター」に寄りましょう。福岡大ワンゲルを襲った人食い熊の剥製は思ったより小さかったが恐ろしげでした。週末なので混むかと思った札内ヒュッテは我々だけの貸切で、静内山岳会の2人が外でテント泊といささか拍子抜けです。

○車はヒュッテ前に置いて入渉点まで700mは歩きましょう。水は稜線上で期待できないので一人7L、食料も予備を持ち、靴を載せるとザックは27Kgでこりゃ重い、ベルトは肩に食い込み足下はフラフラで情けない。コイカクシュサツナイ川の遡行は難しい所はありません、広い川原を適当に上流を目指します。2段の堰堤は右岸を巻き、最初の函も右岸の巻道を通ります、第二の函は中央突破です。正面に夏尾根の急角度なシルエットを認めた時には思わず溜息が・・・

○やがて上二股に到着です、沢靴がいくつも木にぶら下げてあり休んでいる人もいます。我々もここで靴を履き替えて急登に備えます。心配していた上り口は笹が被りますがテープが豊富ですから、背丈を越える笹を分けて進みます。ひたすら急坂を登ると1305mテン場に到着です、日帰りコイカク往復組が休んでいました。

○両側の切れ落ちた痩せ尾根を喘ぎながら登ると這松帯になり岩場が現れます、荷物が重いので慎重に3点確保で切り抜けますが恐かった。ようやく主稜線に出ると北東側には札内岳など望まれますが西側はガスで何も見えません、夏尾根の頭には無人のテントが1張りだけです。我々は休まずに目的地であるコイカクシュサツナイ岳へと向います。

○山頂には札内ヒュッテで一緒だった2人組が休んでいました、これから帰るそうです。暫くすると夏尾根で抜いた3人組が登ってきました、彼らはカムエクに向う予定を急遽変更して1839峰にしたのですが、仲間うちのコミュニケーションが悪く水を持たずに来たようです。我々に水をどのくらい持っているか聞いてきます、7Lと聞いて諦めて帰って行きました(ああ勿体無い)

コイカクシュサツナイ岳からヤオロマップ岳、1839峰を望む


夏尾根の頭の向こうに秀麗なカムエク○5時頃からガスが急に晴れて1839峰の嶮しい山容が正面に眺められました、夏尾根の頭の向こうにはカムエクの緩やかな三角錐が認められます。最後までガスが懸かったヤオロマップも全容を現し、日高の奥深い主稜線が一望のもとです。光り輝く雲海の上に重畳たる緑の山脈が連なり、この世のものとは思えないような美しさです。夕刻にはブロッケンも現れて、日高の稜線上に泊り絶景を独占できる幸せを噛み締めながら、明日のアタックに闘志を燃やす登山隊でした。

○朝起きると天気が変です、ガスが強い風に流されて時折パラパラッと雨がテントを打ちます・・・急速に萎える登山隊のモチベーション。うだうだしているうちに時間が経ってしまいましたがテントを撤収し準備をして出発です、外は思ったよりは天気は悪くありません。這松を掻き分けながら縦走路を進みますが、こんな所を重いザックで通る気がいたしません。

○ヤオロマップに着いても天気は変わらずです、誰も居ない山頂はガスが流れるだけでした。ここからは主稜線を離れて支尾根に入ります。思ったより良い道が尾根南側のお花畑をトラバースしています、嬉しくなって加速した途端に『ガツン!』右の膝頭に衝撃が、少し遅れて激痛が走ります。何たることでしょう、草に隠れて先の尖った岩が道にはみ出しているじゃありませんか。暫くは痛さに蹲ります、本日の核心部を前にリタイアでしょうか?

○何とか歩けるものの戦闘力は大幅にダウンです、登りはまだしも下りは膝に力を入れる度に激痛では敵いません。脂汗を流しながら1781pからの急降下をこなすと、小さなアップダウンを繰り返しながら支尾根を西に向かいます。前衛鋒を越えると最後の急登です、肌色の岩盤が行く手を遮ぎり、ロープが無いので登る手掛かりはありません。左手の草付きに登った跡がありますので細い草木を掴んで身体を持ち上げます。途中で下を見たら脚が竦みそう、ひたすら上を目指して緊張を持続させます。

1839峰にて○明るい山頂には誰もいません、山頂標識さえありませんでした。残念ながら展望はありません、登りの途中でペテガリがガスの中から顔を現したのが唯一でした。でも数々の北海道岳人を魅了し感動を与えたピークは、静かに力強く隊長の心を充足感で満たします、憧れの1839峰に登れたこと相棒に感謝です。

○帰りも半端ではありません、往きと同じような厳しさです。ヤオロマップに着いたらようやく緊張感が緩みます、自宅に登頂メールを送り一安心です。来るときに這松に難渋した縦走路も支尾根を通った今となってはハイウェイ並みに感じるから笑ってしまいます。このまま楽勝で戻れるかと思ったら大間違い、コイカクとの最低鞍部付近で天候が急変いたします。ガスが濃くなったら雨が落ち始めました、慌ててカッパを着て登り始めます。

○遠くの雷鳴に嫌な予感、あと15分で山頂というところで突然頭上を襲う大雷鳴、肝を潰して這松に潜り込み退避いたします。今まで雷には何回も遭ってきましたが運良く無事でした、でも今回は遮るもののない稜線です、慌てて山頂のテントに帰るのは自殺行為でしょう。ツエルトを被って雷の去るのをひたすら待ちますが中々止みません。最後の雷が終わってから念のため10分待ってから歩き始めましたが、結局50分間の退避でした。

○翌朝も軽いガスでしたが夏尾根の頭から1839峰へ向う夫婦を見送ってから出発します。夏尾根の急坂を慎重に下ります、最初は時間が掛かりましたが1305mテン場を過ぎると順調に高度を下げて行きます。ところが好事魔多し、木の根に脚を取られ顔から突っ込む隊長。とっさに顔は横を向きましたが頬からの着地を覚悟いたしました『荷物が大きくて助かったー』頭の上に出たザックの雨蓋部分から着地して頭は無事でした。

○上二股にて洗濯をして装備を点検します、哀れオニューのザックには鍵裂きが、隊長の身代わりとなって・・・命の恩人です。山上にはガスが掛かっていますが、カンカン照りの川原を歩いて札内ヒュッテに戻ります。濡れた装備を乾かしてから清水温泉経由で剣小屋に向かいました。今回は夏山ハイカーの限界に挑戦といった厳しい山行でしたが、幸運にも恵まれて無事に1839峰の頂を踏むことができました、これぞ登山隊の勲章です。



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